1970年、ケニアのコラ国立保護区へ降り立ったクリスチャンを待っていたのは、過酷な野生化へのプロセスでした。アダムソンは、既に野生化していた年長の雄ライオン「ボーイ」と、幼い雌ライオン「カタニア」を引き合わせ、クリスチャンを中心とした新しい群れを作ろうと試みます。
しかし野生の掟は非情でした。カタニアは野生のライオンの群れに襲われて命を落とし、ボーイもまた野生ライオンとの抗争で重傷を負うなど、野生への適応は血の滲むような試練の連続でした。それでもアダムソンの献身的な訓練により、クリスチャンは次第に自力で獲物を倒し、過酷な環境を生き抜く野生の王としての風格を身につけていきます。
そして1971年、ジョンとエースはクリスチャンに会うため、再びケニアのコラを訪れます。「野生化したライオンは君たちを忘れているかもしれない。近づくのは危険だ」というアダムソンの警告を受けながら、岩山の上で待つ二人の前に、堂々たる体躯に成長したクリスチャンが姿を現しました。
緊迫した空気のなか、クリスチャンは歩みを止め、二人を凝視します。次の瞬間、疑念は確信へと変わり、クリスチャンは駆け寄り、まるでロンドンの部屋にいた頃のように二人の肩に前脚をかけ、顔をすり寄せました。さらに奇跡的だったのは、クリスチャンが自分の新しいパートナーである野生の雌ライオンたちをも二人にお披露目するように連れてきた点です。
その後、二人は1973年にもう一度だけクリスチャンを訪ねています。その時、クリスチャンは以前よりもさらに巨大化し、完全に野生のプライドの首領となっていました。アダムソン曰く「クリスチャンは何日も姿を見せていなかったが、君たちが到着する前日に不思議とキャンプの近くへ戻ってきた」といいます。二人は最後の抱擁を交わし、クリスチャンは再び深い森の奥へと去っていきました。
それ以降、クリスチャンが人間の前に姿を現すことは二度とありませんでした。彼は本来の寿命である野生の生を全うしたと考えられています。また、この奇跡を支えた保護官ジョージ・アダムソンは、1989年に密猟者から観光客を守るため銃撃戦となり命を落としました。元飼い主のジョン・レンダルも2022年1月に76歳でこの世を去り、物語は完全な歴史の1ページとなりましたが、彼らが紡いだ記憶は色褪せることなく記録されています。