スタジオジブリ作品における声優選考では、伝統的に「専業声優の完成された技術」よりも「演技経験の浅い少年少女が持つ生々しいリアリティ」が重視されてきました。脚本・絵コンテ・プロデュースを担当した宮崎駿氏と、本作で長編監督デビューを果たした故・近藤喜文監督は、天沢聖司役の選考において徹底したオーディションを実施しています。
当時のオーディション現場において、高橋一生さんの芝居は突出した自然体を放っていました。背伸びをした生意気さの裏にある純真さ、バイオリンへ情熱を注ぐストイックな眼差しを、小手先のテクニックではなく内面から発声できる存在として満場一致で抜擢されたと記録されています。
あまり広く知られていませんが、高橋一生さんのジブリ作品への参加は本作が初めてではありません。1991年公開の映画『おもひでぽろぽろ』(高畑勲監督)においても、主人公・岡島タエ子の小学生時代の回想シーンでクラスメイト役の声を担当しており、スタジオジブリとは子役時代から確かな縁で結ばれていました。
主役の月島雫役を務めた本名陽子さん(当時15歳)との掛け合いも、プロの声優同士による整音された掛け合いではなく、中学生同士が図書室の貸出カードや屋上で見せるぎこちない距離感を鮮やかに再現する要因となりました。