子どもの頃から「カミソリで毛を剃ると、以前よりも太く濃くなって生えてくる」という話を一度は耳にしたことがあるはずです。しかし、足の毛を剃ると濃くなる真相について、皮膚科医や形成外科学会の見解は極めて明確です。結論から言えば、剃毛行為によって毛の太さやメラニン色素量が増加することは医学的にあり得ません。
毛髪の太さや毛周期、毛根の密度は、体内のアンドロゲン(男性ホルモン)の分泌バランスや遺伝的因子によってコントロールされています。毛幹(皮膚から外に出ている毛の部分)を剃刀の刃で削ぎ落としたとしても、真皮の深層に存在する毛母細胞や毛乳頭に「より太く作れ」というシグナルが送られる生理的機序は存在しないと報告されています。
では、なぜ多くの人が「剃ったら濃くなった」と感じるのでしょうか。その背景には、以下の2つの視覚的・触覚的錯覚が働いています。
第1に「断面の露出」です。自然に伸びた毛先は、摩擦などによって先細りの円錐状になっています。これをカミソリで水平に剃断すると、毛の最も太い胴体部分の断面が露出します。毛先が丸みを持たず、断面積の大きい円柱状の切り口が皮膚表面から伸びてくるため、視覚的に黒々とした点に見え、触れた際にも硬く感じられます。
第2に「コントラストの変化」です。伸びていた毛先は紫外線や日々の摩擦でわずかに脱色・退色していますが、新しく生えてくる毛根直下の毛はメラニン色素が凝縮されており、極めて鮮やかな黒色を呈しています。さらに、処理によって産毛や角質が除去された明るい肌の上に黒い断面が並ぶことで、視覚的なコントラストが強調され、あたかも剛毛化したかのように錯覚してしまうのです。