イレウス管留置の最大の適応は、腹部手術歴などに起因する「癒着性腸閉塞」をはじめとした機械的イレウスに対する保存的治療です。腸管が物理的に狭窄・閉塞しているものの、腸管壁への血流が保たれている場合、イレウス管による持続的な減圧を行うことで、引き伸ばされていた腸管の浮腫が取れ、折れ曲がり(屈曲)が自然に解除されて通過性が回復するケースが数多く存在します。日本腹部救急医学会などの治療方針においても、単純性癒着性イレウスの初期治療として極めて高い奏効率が示されています。
しかし、イレウス管には「絶対に適用してはならない明確な限界点」が存在します。それが絞扼性(こうやくせい)イレウスです。腸管が血流障害を伴ってねじれ、急速に壊死へ向かう絞扼性イレウスの場合、チューブ留置による保存的治療を試みることは致命的な治療遅延を招きます。腸管壊死、穿孔、汎発性腹膜炎から敗血症性ショックへと急速に進行するため、CT検査で造影不良域(reduced enhancement)や腹水、閉塞ループ(closed loop)が認められた際は、迷わず緊急開腹手術が選択されます。
臨床現場では、「腸閉塞=とりあえずイレウス管」という安易な選択は行われません。血液検査における白血球数、CRP、乳酸値(Lac)の上昇度合いや激しい自発痛・筋性防御の有無を総合的に評価し、虚血所見がないことを厳格に確認した上で、初めて減圧治療の適応が下されます。