世間一般に広まっている境界性パーソナリティ障害の情報には、臨床現場の実態とかけ離れた大きな誤解がいくつか存在します。
第1の誤解は、「悪意を持って人を操ろうとしている」という見方です。周囲を振り回す言動は、計画的な操作ではなく、心の中で警報機がけたたましく鳴り響いているパニック状態からの衝動的行動です。心理学的には「溺れている人間が、助けに来た人の首にしがみついて一緒に沈んでしまう」状態に近く、本人自身が誰よりも激しい苦痛と自己嫌悪に苛まれています。
第2の誤解は、「一生治らない不治の病である」という絶望論です。かつて精神分析の現場では難治性とされていましたが、後述する現代の認知行動療法や弁証法的行動療法の進歩により、適切な治療環境さえ整えば症状は劇的に改善することが統計的に証明されています。
第3の誤解は、「目立つ芸能人は全員パーソナリティ障害の疑いがある」という極論です。感受性の豊かさや表現への並外れたこだわり、自己顕示欲の強さは、表現者にとって不可欠な才能の一部です。職業的特性としての情熱と、日常生活を破綻させる精神疾患としての障害は、明確に区別して論じられなければなりません。