リップ音コンテンツが熱狂的なファンを獲得する一方で、SNSや掲示板では「生理的に無理」「気持ち悪くて吐き気がする」といった拒絶反応も根強く存在する。この評価の二極化は単なる趣味嗜好の問題にとどまらず、人間の神経機構に起因している。
その代表例が「ミソフォニア(選択的音嫌悪症)」である。ミソフォニアを抱える人は、他人の咀嚼音、息遣い、クチャクチャとした湿った口腔音に対して、脳の島皮質(感情や身体感覚を司る部位)が過剰に反応する。この反応が引き金となり、闘争・逃走本能(アドレナリン放出)が暴走し、強い怒りや嫌悪感、パニックに似た身体的苦痛を覚えてしまう。
また、心理的な文脈(コンテクスト)も大きく影響する。「自分が好意や親しみを感じている対象」からのリップ音であれば脳は甘美な刺激として受容するが、「赤の他人」「機械的に作られた音」として認識された途端、それは単なる汚泥のような生体分泌音へと成り下がる。快感と不快感は表裏一体であり、受け手の精神状態や相手への信頼感によって、180度異なる解釈が下される繊細なジャンルなのだ。