「こんなに怒り狂ってしまう私は、母親失格なのではないか」――。臨床心理士や公認心理師が運営するカウンセリング現場に寄せられる相談の中で、最も根深く親たちを苦しめているのがこの強迫観念です。真面目で責任感が強い親ほど、「子どもには常に笑顔で、優しく接するべきだ」という理想像を自らに課し、それが崩れた瞬間に深い絶望へ落ち込んでいきます。
結論から言えば、子どもに対してイライラを抱くこと自体は、母親失格の証拠では一切ありません。日本における心理学講座の臨床報告によると、大人は社会生活において他者との関係を壊さないよう、無意識に膨大な感情を抑制して冷静に対処しています。しかし、家庭という密室において、子どもは大人にとって「日頃抑えつけている感情を解放しても、自分を完全には見捨てない最も安全な相手」として無意識に認識されやすいのです。
外で気を張り詰めて社会規範を守っている人ほど、逃げ場のない家庭内でその反動が生じます。つまり、子どもに向けられる激しい苛立ちは、外の世界で極限まで理性を保ち続けていることの裏返しに他なりません。母親失格と感じる心理の根本には、親としての愛情の欠如ではなく、「限界まで頑張りすぎている疲労の蓄積」と「無防備になれる他者が子どもしかいない環境的孤立」が潜んでいます。