ネット上の情報では「近くのガソリンスタンドまで歩いて行き、ガソリン携行缶で購入して補充すれば安上がり」と簡単に書かれているケースが見受けられますが、これは現在の法規制と安全基準を著しく無視した危険な誤解です。
2019年の京都アニメーション放火事件以降、消防庁による危険物の規制に関する規則が厳格化されました。現在、ガソリンスタンドで携行缶にガソリンを小分け販売してもらう場合、以下の手順が義務付けられています。
- 消防法に適合した金属製携行缶(UN規格認定品)の持参が必須(ポリタンクやペットボトル等は法律上絶対不可)。
- 運転免許証などの公的身分証明書の提示による本人確認。
- 「何のために使用するのか」という具体的な使用目的の申告と記録への署名。
- セルフ式スタンドでは顧客自らの給油小分けは禁止されており、有資格の店員による立ち会い給油が必須(夜間やワンオペ営業時は給油対応を拒否される店舗も多い)。
安全な歩道すらない高架道路や夜間の幹線道路を携行缶を持って往復する肉体的・事故リスクを考慮すれば、素人が独力でガソリンを調達しに行く行為は合理性を欠いています。
さらに見過ごせないのが、ガス欠が車両メカニズムに与える致命的なダメージです。「燃料を入れれば元通り動く」と安易に考えてはいけません。
現代の燃料噴射式エンジンにおいて、インタンク式燃料ポンプは「ガソリンそのもの」に浸かることでポンプモーターの冷却と潤滑を行っています。燃料が空の状態でセルモーターを回し続けると、燃料ポンプが異常過熱を起こして焼き付き、アッセンブリー交換(修理代5万〜10万円)が必要になります。また、タンク底部に沈殿した微細なスラッジ(不純物やサビ)を吸い上げることで燃料フィルターや高圧インジェクターが目詰まりを起こす原因にもなります。
さらにハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の場合、ガソリンが切れた状態で電気モーターだけで走行を強行すると、高電圧駆動用バッテリーが完全放電して保護回路が作動し、システム起動不能に陥って数十万円のインバーター・バッテリー修理費が発生する事例も報告されています。