日活が1964年4月に放った映画『夕陽の丘』は、名匠・松尾昭典監督がメガホンを取り、ハードボイルドなノワール調の緊迫感と叙情的なメロドラマを完璧に融合させた傑作です。物語の骨格をなすのは、組織の闇に生きる男の宿命と、一途に愛を信じ続ける女の哀切な情念です。
凄腕の殺し屋・篠原次郎(石原裕次郎)は、裏社会の掟に従い任務を遂行するものの、組織の冷酷な罠によって逆に命を狙われる絶体絶命の逃亡者となります。傷ついた次郎が目指したのは、北の港町・函館。そこには、かつて深く愛し合いながらも身を引いた女性・長島明子(浅丘ルリ子)が、高台のサナトリウムで次郎の生存と再会を信じて待ち続けていました。
追手として迫る冷徹な殺し屋グループ、そして事件の真相を追い次郎の足取りを追跡する野口刑事(芦田伸介)。幾重にも張り巡らされた包囲網をかいくぐり、満身創痍となりながら函館の地にたどり着いた次郎は、ついに夕陽が赤く染まる丘の上で明子との再会を果たします。
しかし、待ち受けていた結末はあまりにも残酷でした。再会の喜びも束の間、すでに致命傷を負っていた次郎は、明子の腕の中で静かに崩れ落ちます。暮れなずむ函館の海と夕陽を前に、愛する男を抱きしめ絶叫する明子。悲痛な叫びと重なるように流れる主題歌の調べとともに物語は幕を閉じます。単なる予定調和のハッピーエンドを拒み、非情な現実美学を貫いたこのラストシーンこそが、半世紀以上を経ても色褪せない伝説となった最大の要因です。