日吉キャンパスの風景を決定づけているのが、日吉駅側から中央奥の日吉記念館へと一直線に貫く慶應義塾大学銀杏並木です。全長約220メートル、約100本もの大銀杏が立ち並ぶ景観は、新緑の瑞々しい春から黄金色に染まる晩秋まで、四季折々の表情で訪れる人々を魅了します。正門に門扉や高い塀を設けない開放的な設計思想により、日吉キャンパス一般開放の象徴として、ベビーカーを押す親子連れや近隣住民のウォーキングコースとしても日常的に親しまれています。
その並木の終点に鎮座するのが、式典やスポーツイベントの殿堂である日吉記念館です。入学式や卒業式、慶早戦の壮行会など、塾生の人生の節目を幾度となく見守ってきた歴史的建造物であり、2026年には耐震性と最新設備を備えた新記念館へと全面建替えが完了しました。最大約1万人規模を収容可能な圧倒的スケールを誇り、伝統の重みと現代建築の機能美を同時に体感できる場所となっています。
しかし、日吉キャンパスの魅力はそうした華やかさだけに留まりません。敷地の地下深くに、昭和の激動期を物語る重厚な歴史遺構が眠っている事実を知る人は、塾生の中ですら限られています。それが日吉台地下壕です。
太平洋戦争末期の1944年、戦況の悪化に伴い、旧日本海軍の最高指揮中枢であった「大本営海軍部・連合艦隊司令部」が日吉キャンパスへと移転しました。キャンパスの地下には網の目のような巨大なトンネルが掘削され、司令長官室や作戦室、通信室などが設置されました。沖縄戦の特攻作戦や戦艦大和の出撃命令も、まさにこの日吉の地下から発信されたと記録されています。
現在も「日吉台地下壕保存の会」などの市民団体や大学関係者によって保存活動が行われており、平和学習のための定期的な見学会が実施されています。華やかな学生生活の足元に、平和の尊さを静かに語り継ぐ国家レベルの戦争遺構が存在している点に、日吉キャンパスが持つ深遠な歴史の厚みがあります。