インターネット上のコミュニティやSNSでは、「足が短い猫を飼うのは人間のエゴではないか」「奇形を愛玩化していてかわいそう」という声が根強く存在します。なぜこのような批判が生まれるのか、その科学的根拠と誤解を紐解きます。
まず混同されやすいのが、折れ耳で知られるスコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症との違いです。スコティッシュフォールドの折れ耳は耳介軟骨の形成不全であり、遺伝的素因によって全身の関節軟骨にも痛みを伴う骨瘤(こつりゅう)を好発します。
一方、マンチカンに代表される足の短さは、長管骨(手足の長い骨)の成長板に関わる偽軟骨無形成症(常染色体優性遺伝)に起因します。骨の長さが抑制されているものの、骨構造そのものが崩壊したり、全身の軟骨組織が恒常的に激痛を発したりする病理とは根本的に異なります。
しかしながら、「完全に無害」と言い切れない倫理的課題が存在することも事実です。
- 致死遺伝子の問題:短足遺伝子をホモ接合(両親媒から短足遺伝子を1つずつ受け継ぐ)した場合、胎仔は母体内で致死となり出生できません。そのため、健全なブリーダーは「短足×長足」または「短足×他品種の通常肢」のヘテロ接合交配を厳格に徹底しています。
- 運動機能の制限と体型負荷:ジャンプ力や高所からの着地耐性は一般的な猫に比べて明らかに低く、落下時の衝撃吸収能力に劣ります。
つまり、「かわいそう」という声の本質は、猫が先天的な激痛に苦しんでいるという誤解と、無理な近親交配や知識なき悪質ブリーダーに対する警戒感が複雑に絡み合った結果だと言えます。正しい遺伝知識に基づき繁殖された個体であれば、健康で幸福な一生を送ることが十分に可能です。