調理現場や一般家庭において、わかめと昆布の物理的な性質を取り違えたことによる調理の失敗は後を絶ちません。都内の老舗日本料理店で板前を務める職人は、取材に対して次のように現場の実態を明かしています。
「家庭でよくある失敗は、昆布を出汁パックのように強火で煮立ててしまい、昆布特有の磯臭さと強いぬめりを出してしまうケースです。昆布のうま味(グルタミン酸)は60℃付近で綺麗に溶け出しますが、沸騰させるとアルギン酸というぬめり成分が壊れ、出汁が濁ってしまいます。逆に、わかめは煮込み料理に入れてしまうと、あっという間にシャキシャキ感が失われ、どろどろに溶けて汁を濁らせてしまいます。わかめは『火を止める直前に入れる』、昆布は『沸騰する直前に取り出す』というのが、現場における鉄則です」
また、ヘルスケア志向の消費者が陥りがちな誤解として、「海藻は水溶性食物繊維が豊富だから、どれだけ食べても体に害はない」という盲信があります。インターネット上の知恵袋やSNSでも「便秘解消のために毎日大量のとろろ昆布やおしゃぶり昆布を食べていたら、健康診断の甲状腺検査で異常値を指摘された」という相談が定期的に散見されます。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」でも示されている通り、ヨウ素の慢性的な過剰摂取は甲状腺機能低下症や甲状腺腫を引き起こす原因となり得ます。健康のために良かれと思って昆布製品を過剰摂取することは、思わぬ身体的リスクを招くことになります。「食物繊維やミネラルを日常の具材としてたっぷり摂りたい」のであれば、ヨウ素含有量がマイルドなわかめを選び、「料理の塩分を減らしつつ上質なうま味を付与したい」のであれば、昆布を出汁として利用するという機能的な住み分けが必須です。