現地を訪れる観光客が最も陥りやすい誤解が、「養老の滝から流れ落ちるあの豪快な水流が、かつてお酒になった場所である」という思い込みです。しかし、歴史的史料や現地の地誌を紐解くと、水がお酒に変わったとされる霊泉は養老の滝そのものではありません。
伝説の舞台となった奇跡の湧水は、養老の滝から徒歩数分ほど下った養老神社の境内に位置する名水百選「菊水泉(きくすいせん)」です。この泉は古来より「菊の花の露が落ちて水が美酒になった」という菊慈童伝説とも重なり合い、不老長寿の霊水として崇められてきました。ミネラルバランスに極めて優れ、環境省の名水百選指定を受けるとともに、現在も名水愛好家が汲み取りに訪れる清らかな水源です。
江戸時代に入ると、落差30メートルを誇る勇壮な「滝」の視覚的インパクトと、そのすぐ傍らにある「霊泉」の逸話が庶民の間で混同され、やがて「養老の滝=水がお酒になった滝」という象徴的なイメージとして全国に定着していきました。滝を眺めてその迫力に圧倒された後は、必ず養老神社境内の菊水泉へ立ち寄り、千年以上前に天皇を動かした名水の静けさに触れることこそが、この地を訪れる真の醍醐味と言えます。