映画『ベイマックス』の音楽を語る上で欠かせないのが、日本版エンディングを飾ったAIの「Story(English Version)」と、オリジナル版(US版を含む世界共通スコア)を象徴するフォール・アウト・ボーイ(Fall Out Boy)の「Immortals(インモータルズ)」という、まったく異なる2つのマスターピースの存在です。
多くの映画ファンが「なぜ2005年にリリースされた既存曲が、2014年のディズニー新作映画の日本版主題歌に選ばれたのか」という疑問を抱いてきました。配給関係者の証言や当時の制作秘話によると、起用のきっかけはディズニー制作陣が抱いていた確固たる作品哲学にありました。傷ついた少年ヒロと、彼を全肯定で包み込むケア・ロボットのベイマックス。映画が描く「無償の愛と他者への優しさ」という根源的なメッセージを表現できる楽曲を探していたスタジオ側が着目したのが、AIが歌い上げる「一人じゃないから」という強い連帯と慈愛のフレーズでした。
実はこの時、AIはメジャーデビュー以前から大切に温めていた未発表の「Story」英語詞バージョンを保管していました。制作陣がそのデモ音源を聴いた瞬間、「これこそがベイマックスの魂を代弁する歌だ」と満場一致で正式採用が決定したという経緯があります。映画のためにゼロから書き下ろされたタイアップ曲ではなく、楽曲本来が持っていた精神性と物語が奇跡的なシンクロを果たした結果だったのです。
一方で、劇中で強烈なインパクトを残すのがアメリカのロックバンド、フォール・アウト・ボーイが手掛けた「Immortals(インモータルズ)」です。この曲は、主人公ヒロが仲間たちとともにパワードスーツを開発し、それぞれの特技を活かしたスーパーヒーローチームとして覚醒していくラボのシークエンスで鳴り響きます。同曲は彼らの6枚目のスタジオアルバム『American Beauty/American Psycho』(2015年1月発売)にも収録され、全米チャートを駆け巡りました。
静かな癒やしと涙の余韻を残す日本版の「Story」と、少年の成長と前進するエネルギーをアグレッシブなビートで鼓舞する「Immortals」。日米のエンディング仕様の違いは、日本市場における「癒やしと共感」の受容性と、グローバル展開における「冒険譚とヒーローアクション」の訴求という、カルチャライズ戦略の絶妙な成功例として音楽業界でも高く評価されています。