『トリセツ』が誕生した直接の契機は、桐谷美玲が主演を務めた2015年公開のラブコメディ映画『ヒロイン失格』の主題歌オファーでした。恋に猪突猛進で感情豊かな主人公・松崎はとこの不器用ながら愛らしいキャラクターに寄り添う楽曲として、西野カナ自身が作詞を手掛けています。
当時の音楽雑誌や特番インタビューにおいて、西野カナは制作の裏側を率直に明かしています。「普段は恥ずかしくて言えないようなお願いや乙女心を、電化製品の取扱説明書風にユーモラスに伝えたら面白いのではないか」という着想からスタートし、自身の友人たちへの綿密なヒアリングを重ねてフレーズを紡ぎ出しました。
歌詞の中で描かれる「急に不機嫌になる」「定期的に褒めると長持ちする」「一点物につき返品・交換は受け付けない」といったフレーズは、一見するとわがままな要求の羅列に見えるかもしれません。しかし、その根底にあるのは「完璧ではない面倒な自分を丸ごと受け止めてほしい」という、切実かつ不器用な愛情の告白です。言葉足らずで素直になれない女性が、ユーモアというオブラートに包んで差し出した白旗こそが、この歌詞の真の意味と言えます。
2016年7月にリリースされた大ヒットアルバム『Just LOVE』にも収録され、彼女のキャリアを代表する金字塔としての地位を決定づけました。