「命を救うためなら全裸にされても文句は言えないはずだ」という理屈だけでは、救助者の心理的なハードルを解消できないのが現実だ。そこで医療現場や救急隊の知見から浸透し始めているのが、「衣服を完全に脱がせないAEDの使い方」である。
AEDの電極パッドは、心臓を挟み込むように「右鎖骨の下」と「左脇腹のやや下」の2箇所に素肌へ直接密着させる必要がある。裏を返せば、この2箇所にパッドが正しく貼られていれば、洋服をすべて剥ぎ取る必要はない。ブラジャーやキャミソールを着たままでも、下着の隙間から滑り込ませてパッドを素肌に装着し、上から衣類や上着を掛け直して目隠しをすれば、肌を過度に露出させることなく電気ショックを実行できる。
下着に含まれる金属ワイヤーについては、「火傷の危険があるため外すべき」と誤認されがちだが、電極パッドがワイヤーに直接重ならない限り感電や重大な熱傷を起こす恐れはない。金具を外すために時間を空費するよりも、パッドを金具から数センチ離して素肌に素早く貼り付けることが優先される。
全国の消防本部や自治体では、AED本体のキャリングバッグに「三角巾」や「目隠しシート」を同封する配慮を進めている。救助者が胸部にパッドを貼り終えた後、即座に三角巾を胸元に覆い被せたり、周囲の野次馬によるスマートフォンの無断撮影を防ぐために他のバイスタンダー(目撃者)がシートを広げて壁を作ったりする訓練が定着しつつある。尊厳への配慮と一刻を争う救命は、決して二者択一ではない。