一方、身体表現の極限で「弱さ」の転換を描き出したのが、渡辺航による大ヒット作『弱虫ペダル』だ。アニメオタクで運動とは無縁だった小野田坂道が、ロードレースという過酷な競技を通じて自己の未知なる領域を切り拓いていく。この作品が単なるスポ根にとどまらず、息詰まる心理ドラマとして語り継がれる理由は、登場人物全員がそれぞれの「欠落」を背負ってペダルを漕いでいる点にある。
体格の劣等感、過去のトラウマ、エースを支える重圧。ロードバイクの上では虚勢も言い訳も通用しない。剥き出しになった魂が限界寸前で摩擦を起こすとき、弱さはチームを繋ぐ強烈な結束力へと姿を変える。誰かのために自らを削り、風除けとなって散っていくアシストたちの姿は、個の強大さよりも「他者への共感と献身」こそが真の推進力であることを雄弁に物語る。