お菊の作中エピソードの中で、読者の心を最も締め付けたのが黒炭カン十郎との因縁です。20年以上もの間、苦楽を共にした仲間でありながら、黒炭家の復讐のために光月家を欺き続けていたスパイ・カン十郎。鬼ヶ島の裏口でお菊はカン十郎と対峙します。
「情を捨てきれるか」という極限の心理戦の中、お菊は般若の面をつけ、涙を流しながらかつての同志に刃を向けました。「お前のつけた傷は、消えぬ雪のように痛むのだ」という言葉とともにカン十郎を一度は打ち倒したものの、最後の最後で仲間の幻影を見せられた際に迷いが生じ、刃を受け止めてしまった姿は、お菊の優しさと侍としての業の深さを象徴しています。
また、左腕を失った直後に錦えもんから痛みを問われ、「少々……風が沁みました」と涼しい顔で微笑んだシーンは、彼女の内に秘めた侍の誇りが極限まで発揮された名場面として語り継がれています。