フィッシャーの正確確率検定を巡っては、ウェブ上や初学者向けコミュニティでいくつかの重大な誤解が流布されています。正しいデータ解析を進めるために、これらの俗説を是正しておきましょう。
誤解1:「データ数が多い場合はフィッシャー検定を使ってはならない」
これは完全に歴史的な誤解です。黎明期のコンピュータ環境では、超幾何分布で扱う階乗(!)の計算量が膨大になり、標本サイズが数百を超えると計算機のメモリがパンクしていました。そのため「大標本では計算が軽微なカイ二乗検定を使い、フィッシャーは小標本専用」という運用上の妥協ルールが定着した経緯があります。
最新のハードウェアと最適化されたネットワークアルゴリズム(Network algorithm)を備えた現代の分析環境では、数万規模のデータであってもフィッシャー検定を一瞬で処理できます。大標本下ではカイ二乗検定の結果とフィッシャー検定の結果が数学的にほぼ一致するため、大標本でフィッシャー検定を用いたからといって統計的な過誤が生じるわけではありません。
誤解2:「オッズ比(Odds Ratio)と相対リスク(Relative Risk)の混同」
フィッシャー検定を実行する際、多くのツールが効果量の指標としてオッズ比を算出します。ここで警戒すべきは、オッズ比を「リスクが何倍になったか」を示す相対リスクと同一視してしまうミスです。
対象とする事象の発生頻度が十分に低い場合(希少事象の仮定)、オッズ比は相対リスクに近似します。しかし、発症率や不良率が20%〜30%を超えるような高頻度のデータでは、オッズ比は相対リスクよりも数値を極端に過大評価する性質があります。学術論文や経営陣への報告書を作成する際は、オッズ比の値だけでなく、必ず95%信頼区間の幅を併記し、事象のベースライン発生率を意識した解釈を提示しなければなりません。