松たか子を取り巻く血縁のネットワークは、まさに日本の文化史そのものと言って差し支えない。彼女の本名は佐橋隆子。父は歌舞伎界の重鎮であり、格調高い演技と圧倒的な存在感で演劇界を牽引し続けてきた二代目松本白鷗である。そして兄には、端正な顔立ちと力強い芸風で現代の歌舞伎をリードする十代目松本幸四郎が名を連ねる。
一般的に、梨園の娘として生まれた女性は舞台の裏方や陰の支え役に回ることが多い。しかし、父・白鷗は幼少期から娘の持つ豊かな表現力と舞台度胸を見抜き、あえて型にはめない自由な表現者としての教育を施した。家庭内では厳格な師でありながらも、一歩外に出れば娘の自立した挑戦を静かに見守る温かい眼差しがあったという。また、兄の幸四郎にとっても、ジャンルを軽やかに飛び越えて活躍する妹の姿は大きな刺激であり、互いの舞台や映像作品を尊重し合う対等な同志としての絆が結ばれている。