2026年現在のバンコクにおいて、民族衣装体験の震源地となっているのがワット・アルン対岸および門前のマハラート通り一帯です。早朝8時の開門と同時に、色とりどりの衣装をまとった各国旅行者が押し寄せ、境内はまるで時代劇のロケ地のような活況を呈しています。
現地のレンタルショップを取材すると、基本的なレンタル料金は1回約200〜300バーツ(日本円で約850〜1,300円前後)と極めてリーズナブル。これにヘアセット(100バーツ程度)やアクセサリーの貸出がセットになっている店舗が大半です。さらに近年では、腕利きのフリーランス・カメラマンが1時間1,500〜2,500バーツ程度で境内同行撮影を請け負うパッケージが定番化しています。
しかし、SNS上での「最高の思い出になった」という絶賛の声の一方で、実際の体験者へのヒアリングやネット上の口コミ検証からは、過酷な現場のリアルも浮かび上がってきます。
「乾季の朝9時ですでに気温は32度超え。シルク混の生地は通気性が悪く、サバイを何重にもピン留めしているため汗が肌に張り付いて倒れそうになった」(20代女性・旅行者)
「レンタル店が混雑しすぎていて、着付けが安全ピンだらけの突貫工事。階段を登る最中にスカートのプリーツが解けそうになり、手で押さえながら歩く羽目になった」(30代女性・体験者)
タイの伝統衣装の着付けは、本来「パー・ヌン」と呼ばれる一枚の布を熟練の職人が折り込み、ひだ(ジープ)を作って腰紐と帯留めで固定していく極めて緻密な手作業です。しかし格安の観光レンタル店では、時間短縮のためにマジックテープや安全ピンを多用した簡易仕立ての衣装が多く、動き回るうちにシルエットが崩れてしまうケースが頻発しています。炎天下での水分補給や、着崩れへの配慮は必須と言えます。