日本の商業アニメにおいて芸能人や実写俳優が声優に起用される際、ネット上ではしばしば「プロモーション目的の安易な客寄せパンダ」「話題性作り」という批判が浴びせられます。しかし、『いぬやしき』におけるキャスティングを単なるタイアップ戦略として片付けるのは、本作の本質を見誤る重大な誤解です。
さとうけいいち総監督は、映画『TIGER & BUNNY』や『黒執事』などエンターテインメントの第一線で活躍する一方、実写映像の演出手法をアニメに持ち込むことに長けたクリエイターです。制作サイドの証言によると、今回の俳優起用は製作委員会の宣伝都合からトップダウンで下りてきたものではなく、「実写の役者が持つ生体反応としての呼吸音」を作品のトーン&マナーに不可欠な要素として監督陣が自ら求めたものでした。
特に『いぬやしき』の日常描写には、間延びした沈黙や、相手の言葉を遮るようなリアルな重複会話が多用されています。あらかじめ決められたタイムシートに正確に声をはめ込む従来の職人的声優スキルではなく、「相手の感情を受けて自然に喉から漏れ出る声」を再現するには、普段身体全体で芝居をしている俳優陣の感性こそが最適解だったのです。結果として、本作は「俳優を起用したアニメ」の中でも、奇跡的な芸術的成功を収めた稀有な作品となりました。