「魔女狩りは過去の迷信であり、現代では単なる比喩に過ぎない」——そう考えているとすれば、それは世界の冷厳な現実を見落としている。国連や国際人権団体の調査報告によると、アジア、アフリカ、オセアニアの農村部を中心として、今なお生身の人間が「魔女」として虐殺される事件が後を絶たない。
公式統計や報道各社の取材データは、その恐るべき実態を証明している。インドにおいては、2000年から2019年までの約20年間で少なくとも2,975人が魔女と名指しされて殺害された。被害者の大半は、土地を持つ未亡人や低カーストの女性、高齢者である。親族や村の有力者が土地を奪うため、あるいは原因不明の病死が出た責任を押し付けるために「彼女が呪いをかけた」と告発し、集団で暴行を加えて追放・殺害に及ぶ事例が頻発している。
さらに深刻な状況が報告されているのがアフリカ諸国だ。ガーナ北部には、魔女の烙印を押されて村を追われた女性たちが身を寄せる「魔女の村(魔女キャンプ)」が複数存在し、数千人の高齢女性が隔離された環境で過酷な生活を送っている。タンザニアでは、アルビノ(先天性色素欠乏症)の人々の身体の一部が幸運をもたらす呪術の材料になると信じられ、襲撃・殺害される事件が国際的な非難を浴びてきた。
大洋州におけるパプアニューギニア 魔女狩り 実態も凄惨を極める。同国では「サングマ(Sanguma)」と呼ばれる黒魔術信仰が根深く残っており、若年層の急死や伝染病の発生を「サングマの仕業」として特定の女性を告発する。熱した鉄棒で拷問を受け、生きたまま火を放たれるといった残虐行為が相次ぎ、警察組織の介入が困難な山岳地帯では法の支配が及んでいない。
17世紀初頭、スペインのバスク地方で吹き荒れた魔女狩りを沈静化させた異端審問官アロンソ・デ・サラザール・フリアスは、歴史に残る次の言葉を残した。
「それについて論じられ、書かれ始めるまでは、魔女も魔法をかけられた者もいなかった」
実体のない魔女を作り出すのは、客観的事実ではなく、集団の噂話と恐怖心、そして無責任な言説の流布である。この心理構造は、400年前の審問廷も、現代の辺境の村も、そして無数のスマートフォンが明滅する日本のSNS空間も、何一つ変わっていない。