近年、登山道やキャンプ場、建設現場やゴルフ場で急速に普及したリアル模型「おにやんま君」。化学殺虫成分やディート(DEET)などの忌避剤を一切使わず、帽子やザックに装着するだけで虫が近寄らなくなるという触れ込みは、オーガニック志向のキャンパーや肌の弱い子どもを持つ保護者から熱狂的な支持を集めました。では、オニヤンマの虫除け効果の理由とおにやんま君効果の真相はどこにあるのでしょうか。
このメカニズムは、行動生態学における「視覚的捕食回避行動(天敵シグナル仮説)」によって説明されます。昆虫の複眼は解像度こそ高くありませんが、動体視力とハイコントラストな縞模様の識別能力に極めて優れています。自然界において、オニヤンマの「黒と黄色のストライプ」は、捕食される側の小昆虫にとって「遭遇=死」を意味する絶対的危険信号です。山林を徘徊するアブ(ウシアブ、イヨシロオビアブ)やブヨ(ブユ)、スズメバチやアシナガバチは、視界内にオニヤンマ特有のシルエットや警戒色を捉えた瞬間、脳内の回避中枢が刺激され、本能的にその空間から進路を変更します。
2020年代に入り、複数の大学研究機関や昆虫生態研究者によって実地検証が行われました。森林総合研究所や各応用動物昆虫学会の知見を参照すると、アブやハチ類に対する忌避行動には統計的な有意差が確認されています。特に牛舎周辺や林道におけるトラップ比較試験では、オニヤンマの模型や類似の黄色・黒縞模様を設置したトラップにおいて、アブの飛来数が無設置エリアと比較して大幅に減少したデータが報告されています。単なるオカルトグッズではなく、昆虫の知覚器官に働きかける視覚的トラップとしての実効性が裏付けられているのです。