『ゴールデンカムイ』の物語を俯瞰する上で、基本となるのは「杉元陣営」「鶴見中尉率いる第七師団」「土方歳三一派」という三大勢力の対立軸です。しかし、一般的なバトル作品と決定的に異なるのは、「金塊を手に入れたあとのビジョン」が各陣営、さらには構成員個人によってまったく異なっている点にあります。
まず物語の主軸となる「杉元陣営」は、日露戦争の激戦を生き抜いた「不死身の杉元」こと杉元佐一と、父の死の真相を知ろうとするアイヌの少女・アシㇼパによって結成されました。当初の目的は、戦死した親友・寅次の遺志を継ぎ、その妻・梅子の眼病治療費を得ること。そこに「脱獄王」白石由竹が加わり、利害の一致と奇妙な情愛で結びついた最小ユニットとして機能します。アシㇼパは金塊そのものよりも「アイヌの尊厳と未来」を守ることを最優先としており、杉元の目的とは本質的に乖離を孕んでいました。
対する「第七師団」は、日露戦争の激戦地・二〇三高地で頭部を負傷した鶴見篤四郎中尉が掌握するクーデター軍閥です。見捨てられた戦友たちの救済と北海道の軍事政権樹立(軍事国家化)を掲げ、月島軍曹や鯉登少尉、宇佐美上等兵といった忠誠心の高い部下を狂信的なカリスマ性で束ねています。鶴見中尉の武器は暴力だけでなく、相手の心の傷や欠落に巧妙に入り込む天才的な人心掌握術でした。
そして第三極として不気味な存在感を放つのが、幕末の動乱を生き延びて網走監獄に幽閉されていた新選組副長・土方歳三の陣営です。元新選組二番隊組長・永倉新八をはじめ、不敗の柔道家・牛山辰馬、元医師の死刑囚・家永カノ、元看守の門倉利運らを糾合。「蝦夷共和国の再興」という途方もない政治的野望を胸に秘め、老獪な智謀と圧倒的な実力で若者たちを翻弄していきます。