かつての日本社会において、性体験の有無は男性同士の力関係を測る残酷な指標として機能していました。特に平成期のバラエティ番組や男子校的なホモソーシャル空間では、未経験者をからかう「童貞いじり」が定番の笑いとして消費されてきた歴史があります。
その象徴と言えるのが、「30歳まで未経験を守ると魔法使いになれる」という魔法使い都市伝説です。2000年代初頭の匿名掲示板「2ちゃんねる」で誕生したこの自虐的なスラングは、やがて漫画やアニメの題材としても広く定着しました。本来は痛切な孤独感をユーモアによって中和し、仲間内で連帯するための防衛的な言葉遊びだったのです。
しかし近年のコンプライアンス意識の高まりやハラスメント概念の浸透により、他人の性体験を公然と弄る行為は「深刻なプライバシーの侵害」と捉えられるようになりました。職場や公の場で童貞を揶揄することは明確なセクシャルハラスメントとして排除される傾向にあり、表層的なからかいは確実に激減しています。その一方で、公に話題にしづらくなったからこそ、当事者が一人で悩みを抱え込みやすくなったという新たな孤立の構図も浮き彫りになっています。