ネット上のレシピ動画やまとめサイトには、経験則に基づかない危険な俗説が散見されます。その最たるものが「トゲがあるほうが野生味があって栄養価が高い」という言説です。
植物形態学の研究において、タラノキのトゲの有無や密度は外敵(草食動物)からの防衛適応の結果であり、ビタミンB群やポリフェノール、カリウムなどの含有栄養素とは直接的な相関関係が確認されていません。トゲが一切ない品種であっても、山菜特有の心地よい苦味成分であるエラトシドやサポニンは十分に含有されており、栄養学的な優劣は存在しないのが事実です。
また、「アク抜きを半日以上しっかり行えばトゲもふやけて無害化する」という主張も明らかな誤解です。山菜のアク抜きは水溶性の苦味や渋み(シュウ酸やタンニン)を抜くための工程であり、硬質化したセルロース骨格を持つトゲを軟化させる作用はありません。むしろ水に長時間浸けすぎると、タラの芽ならではのみずみずしい春の香りが抜けてしまい、台無しになります。下処理の目的は「トゲの物理的除去」と「適度なアク抜き」であり、両者を混同しないことが失敗を防ぐ鍵となります。