是枝作品といえば、これまで『万引き家族』や『怪物』に代表される密度の高いヒューマンドラマが代名詞だった。しかし今作では、息をのむサスペンス・ミステリーの要素が大胆に導入されている。消えた客の行方、店に隠された過去の殺人事件の真相、そして壁一面に並ぶ古本に隠された暗号。観客を迷宮へと誘う仕掛けが幾重にも張り巡らされた。
だが、単なる謎解き映画にとどまらないのがこのチームの真骨頂だ。事件の背景にあるのは、孤独や差別、親子の絆といった普遍的な問いかけである。人間の生々しい感情を描き切るヒューマンドラマの力強さと、先の読めないサスペンスの緊張感。二つの要素が奇跡的なバランスで融合した極上のエンターテインメントに仕上がっている。