ネット上では「ラッパーはなぜ薬物逮捕が多いのか」「業界全体が常習しているのではないか」といった疑惑や噂が絶えません。この疑問を解き明かすには、HIPHOPと大麻文化の歴史的な文脈を正確に紐解く必要があります。
1970年代のニューヨーク・サウスブロンクスで産声を上げたヒップホップは、貧困層の若者による抵抗の文化であり、ストリートの過酷な現実をありのままにスピット(描写)する表現として発展しました。米国において大麻は、人種差別的な取締りへの反発やカウンターカルチャーの象徴、さらにはリラクゼーションツールとして深くカルチャーに根付いていった経緯があります。1990年代のウエストコースト・ヒップホップ(Gファンク)に代表されるように、大麻の吸引を前提としたアルバムジャケットやリリックが世界的なメガヒットを記録しました。
しかし、この米国直輸入のスタイルを日本のストリートが模倣する過程で、「違法行為への加担=本物(リアル)のラッパー」という歪んだアイデンティティが形成された側面は否定できません。日本の現行法において明確な犯罪であるにもかかわらず、リリック内で隠語(スラング)を用いて大麻やコカインの使用を仄めかすことが、一部のファンや同業者からのプロップス(称賛)につながるという閉鎖的な評価軸が存在し続けてきたのです。