多くの人が「しりとりで最も返せない文字」として挙げるのが「る」です。国立国語研究所の語彙コーパスや主要な国語辞典(『広辞苑』や『新明解国語辞典』など)を紐解くと、五十音の中で「る」から始まる見出し語の総数は全体のわずか0.2%〜0.5%前後にとどまります。全ページ中、わずか数ページで終わってしまうこの特異な現象には、日本語の成立過程における明確な理由が存在します。
古代の日本語である「大和言葉(和語)」には、語頭にラ行子音(/r/)を置くことを厳格に避ける「語頭流音(りゅうおん)の制約」と呼ばれる音韻法則がありました。アルタイ諸言語などにも共通するこの音韻規則のため、生粋の和語には「る」はおろか、ラ行から始まる単語そのものが本来一つも存在しませんでした。
現代日本語に存在する「る」から始まる語彙は、歴史の変遷とともに外部から流入した以下の3系統にほぼ集約されます。
一つ目は、中国大陸から渡来した「漢語」や「仏教用語」です。「流布(るふ)」「瑠璃(るり)」「類似(るいじ)」「累計(るいけい)」などがこれに該当します。二つ目は、北海道の先住民族の言語である「アイヌ語」に由来する言葉で、鮭の凍結保存食である「ルイベ」が代表例です。そして三つ目が、明治以降の近代化や戦後に急増した「西洋外来語(カタカナ語)」であり、「ルビー」「ルート」「ルーレット」などが挙げられます。
つまり、私たちが日常的に使う「るから始まる言葉」は、すべて後天的に外から取り入れられた語彙であり、脳内の無意識な語彙ネットワークにおいて想起しにくいのは言語学的に極めて自然なことなのです。