事件の発端となったのは、2023年5月18日発売の『女性セブン』(2023年6月1日号)に掲載された告発記事でした。「市川猿之助 コロナ禍の濃厚セクハラ」などと題されたその報道は、猿之助が座頭を務める舞台や懇親会の場において、弟子や劇場スタッフ、共演の役者に対して過剰なスキンシップや性的要求、拒否できない関係性を利用したパワハラを行っていたとする複数の関係者証言を詳細に記したものでした。
歌舞伎界における「座頭」は、単なる主役にとどまらず、公演のキャスティングや演出、スタッフの処遇に絶大な権限を持ちます。記事中では、立場上逆らうことができない下位のスタッフや若手役者に対し、ホテルの一室や酒席で不適切な接触を強要し、拒絶した者には配役を外すなどの報復措置が取られていたと指摘されました。
伝統芸能の世界に深く根付いていた師弟関係や縦社会の規律が、密室におけるハラスメントの温床になっていた実態が告発されたことで、舞台人としての高い評価とクリーンなパブリックイメージは一夜にして崩壊の危機に瀕することになりました。