日本は国土のおよそ7割を山林が占める山岳国でありながら、長らく「山」を称える国民の祝日は存在しませんでした。事態が大きく動いたのは2010年4月、日本山岳会をはじめとする全国五つの山岳関連団体が「山の日制定協議会」を発足させたことが契機です。超党派の「山の日制定議員連盟」が結成され、国会での法制化に向けた議論が一気に加速しました。
日付の選定にあたっては、当初「お盆休みの前日」として最も連休化しやすい8月12日が最有力候補として挙がっていました。しかし、この日付には重大な歴史的記憶が刻まれていました。1985年8月12日に群馬県の御巣鷹の尾根で発生した日本航空123便墜落事故です。関係省庁や国会審議の場において、「多くの犠牲者を悼む慰霊の日に、山を祝う祝日をぶつけるのは遺族感情を著しく傷つける」という強い懸念が噴出しました。
当時の議事録や関係者の証言を振り返ると、慰霊と祈りの日を避ける形で日付の再考が行われ、最終的に前日である8月11日へのスライドが決着を見ました。一般には「八」の字が山の稜線に見えること、数字の「11」が立ち並ぶ木々の姿を連想させることといった親しみやすい理由が後付けとして広く普及しましたが、その根底には航空機事故への深い哀悼と社会的な配慮が存在していたのです。この決定を経て、2014年5月に「国民の祝日に関する法律(祝日法)」の改正案が可決され、2016年8月11日より新たな祝日として正式にスタートを切りました。