2017年10月、ヤクルトスワローズから発表された今浪隆博の現役引退は、多くのファンにとって寝耳に水の出来事でした。代打の切り札や内野のユーティリティープレイヤーとして、首脳陣から極めて高い信頼を寄せられていた時期だったからです。
引退の直接的な引き金となったのは、国が指定する難病にも関連する「甲状腺機能低下症(橋本病)」の発症でした。当時の手記や本人の公式インタビューによると、2017年のシーズン開幕前から「朝起き上がることすらできないほどの異常な倦怠感」「どれだけ寝ても回復しない疲労」「集中力の急激な低下」に襲われていたといいます。
甲状腺ホルモンは全身の代謝を司る重要なホルモンですが、これが不足することで体温調節が乱れ、筋力低下や極度の無気力状態に陥ります。一流のアスリートがミリ秒単位の動体視力と瞬発力を競うプロ野球のグラウンドにおいて、この体調異変は致命的でした。
「バットを振る以前に、グラウンドに立つためのエネルギーが身体の内側から完全に失われていた」と本人が語るように、病院での精密検査を経て病名が判明したときには、すでに選手生命の岐路に立たされていました。投薬治療を続けながら復帰を模索したものの、ファンやチームにプロとしての万全なプレーを見せられない葛藤の末、惜しまれつつも33歳での現役引退という英断を下したのです。