事件から数か月後、マサチューセッツ州の検視当局が正式に公表した検視解剖報告書によって、少年の直接的な死因が医学的に特定されました。報告書に明記された死因は、「高濃度のカプサイシンを含む食品を摂取したことによる心肺停止(Cardiopulmonary arrest)」でした。
あわせて実施された病理検査では、少年に肥大型心筋症および心筋ブリッジ(先天的な冠動脈走行異常)という心血管系の素因が存在していたことが判明しました。つまり、高濃度の激辛成分が体内に取り込まれたことによって、心臓へ極度の過負荷がかかり、致命的な不整脈を誘発したというメカニズムです。
超高濃度のカプサイシンが人体に入ると、口腔や消化管に存在する痛覚受容体「TRPV1」が猛烈に刺激されます。脳はこれを「激しい全身性の熱傷(火傷)」と同様の危機事態と錯覚し、交感神経系を異常に亢進させます。その結果、以下のような連鎖反応が体内で引き起こされます。
- 急激な血圧上昇と不整脈:アドレナリンが大量分泌され、心拍数が危険域まで跳ね上がるとともに、心室細動などの致死的不整脈を誘発する。
- 冠動脈攣縮(心臓血管のスパズム):カプサイシンの直接的・間接的作用により、心臓に血液を送る冠動脈が激しく収縮し、心筋梗塞に似た血流遮断(虚血状態)が生じる。
- アレルギー・ショック反応(クーニス症候群):アレルギー反応に伴うヒスタミンなどの化学伝達物質が冠動脈を攣縮させ、心停止に至る病態が激辛成分の刺激によって引き起こされるケースも報告されている。
「辛いものを食べただけで心臓が止まるはずがない」という一般的な思い込みに反し、超高濃度カプサイシンは強力な神経・血管作動性物質として機能します。素因の有無にかかわらず、循環器系に壊滅的な打撃を与える毒性を発揮し得る点が医学的な結論です。