ショート動画プラットフォームを開けば、毎日のように流れてくる動画がある。排水口や換気扇に粉を振りかけ、もう一方の粉を振りかけて水を垂らす。激しい発泡とともに「驚きの洗浄力!」とテロップが躍る演出だ。誰もが一度は見覚えがあるだろう。
見事なスペクタクル。だが、純粋な化学の視点から見れば、あれは洗浄劇ではなく単なる中和反応の残骸に過ぎない。
東京工科大学で応用化学を教える研究者は、苦笑いを浮かべながらこう指摘する。「あの泡の正体は単なる二酸化炭素(炭酸ガス)です。アルカリ性の重曹と酸性のクエン酸が互いの持ち味を打ち消し合い、水とクエン酸ナトリウム、そして気体に分解されているだけ。物理的な振動で軽いホコリを浮かす効果はゼロではないものの、頑固な油汚れやカルキ汚れを化学的に分解する力は、混ぜた瞬間にほぼ死滅しています」。
視覚的な快感と実質的な洗浄力は比例しない。2026年の消費者は、アルゴリズムが推奨する「気持ちいい映像」に年間数百億円もの購買力を誘導されているのだ。