ネット上の掲示板やSNSでは、長年にわたり「CASSHERNはCGがチープで浮いている失敗作」という誤った言説が一人歩きしてきました。しかし、これは映像制作の文脈を無視した重大な事実誤認です。
映画制作関係者やVFXディレクターの証言・メイキング資料を紐解くと、紀里谷監督が目指したのはそもそも「現実と見紛うフォトリアルなCG」ではありませんでした。監督自身が当時の特番インタビューや自著で語っていたのは、「動くグラフィックアート」「絵画のような空間構築」という表現主義的なアプローチです。人物の輪郭にあえて非現実的なコントラストをつけ、色彩の彩度を極端に操作した映像設計は、写真家としての美学に基づいた意図的な演出でした。
ハリウッドが数百億円の予算を投じて追求していた「リアルな特撮」に対し、わずか数億円規模の予算で、少数精鋭の日本人CGクリエイターたちとともに世界に通じるオルタナティブな映像様式を打ち立てようとしたのが『CASSHERN』の真実です。この事実は海外で極めて正当に評価され、のちに紀里谷監督がモーガン・フリーマンやクライヴ・オーウェンを主演に迎えたハリウッド映画『ラスト・ナイツ』(2015年)を監督する足がかりとなりました。