「高級な牛ももブロック肉を使ったのに、ゴムのように噛み切れない」「薄く切ろうとすると肉が裂けてボロボロになってしまう」――こうした悩みの背後には、牛肉の組織構造が深く関係しています。牛肉は無数の細い筋繊維が束になって構成されており、この繊維束の走り方を無視して包丁を入れると、どれほど上質な肉であっても食感が著しく損なわれます。
繊維に沿って平行に刃を入れてしまうと、長く強靭な筋繊維がそのまま口の中に残るため、強い力で噛み続けなければならず「固い」と感じてしまいます。一方、繊維に対して垂直に包丁を入れて繊維を短く断ち切ると、咀嚼時にわずかな力で肉がほぐれ、とろけるような柔らかく仕上がる切り方が実現します。
また、ローストビーフが崩れる理由の多くは、加熱後のタンパク質の凝固状態と包丁の摩擦にあります。繊維の方向を見誤って斜めに無理な力をかけたり、筋繊維を押し潰すように切ったりすると、層状に剥がれてボロボロと崩れてしまいます。美しい形状を維持するためには、肉の構造を正しく理解し、繊維を直角に分断する正確なアプローチが欠かせません。