「お妾さん」という存在を深く理解するためには、歴史的な公認実態から現代の司法判断に至る構造変化を一望する必要がある。過去の慣習と現代の法律の間には、埋めがたい断絶が存在するからだ。
歴史的な公認制度の時代においては、主人の庇護のもとで一定の生活保障が暗黙のうちに担保されていた。しかし現代の法治国家においては、いかに長年生活を共にし経済的支援を受けていようと、法的な婚姻関係にない関係は不貞行為に基づく「公序良俗違反(民法90条)」と評価されるリスクを常に孕んでいる。
最大の問題が生じるのは、当事者の死亡に伴う「遺産相続」の現場だ。かつてのように「妾とその子」が自然に一家の恩恵にあずかることはできない。遺言書が存在しない場合、内縁や愛人関係にある配偶者外のパートナーには一切の法定相続権が認められていないのが現行法規の絶対的な原則だ。
仮に生前贈与や遺言によって全財産を愛人に遺贈する旨を記していたとしても、正妻や嫡出子から遺留分侵害額請求を起こされれば、遺産の一定割合を金銭で返還しなければならない。生前の生活費援助の約束も、当事者が亡くなれば法的効力を失うケースが多く、現代においてこの立場を選ぶことは経済的にも極めて高い法的リスクを背負い込むことを意味する。