ネット上で広く親しまれている「まるで成長していない」というフレーズの出所は、井上雄彦氏による伝説的バスケ漫画『SLAM DUNK』です。発言の主は、主人公・桜木花道が所属する湘北高校バスケットボール部の監督、安西光義(あんざい みつよし)。穏やかな風貌から「白髪仏(ホワイトヘアードブッダ)」と親しまれる安西先生ですが、かつて大学バスケ界を牛耳っていた時代は、選手に過酷な基礎練習を課すスパルタ指導で「白髪鬼(ホワイトヘアードデビル)」と恐れられていました。
その白髪鬼時代、安西先生が全精力を傾けて育てようとした未完の大器が、身長2メートルの大型ルーキー・谷沢龍二でした。卓越した身体能力と恵まれた体格を持つ谷沢に対し、安西先生は基礎フットワークやパス、ディフェンスといった地味な基礎練習を徹底的に叩き込みます。しかし、派手なプレイで脚光を浴びたい谷沢は「俺の才能を潰す気か」と強い不満を抱き、安西先生に無断で単身アメリカへバスケ留学へと飛び出してしまいます。
音信不通となってから5年後、安西先生のもとにアメリカの大学リーグでプレイする谷沢のビデオテープが送られてきます。期待と不安を胸に再生ボタンを押した安西先生の目に飛び込んできたのは、チームメイトと呼吸が合わず、パスも出せずに無謀な単独突破を仕掛けてはボールを奪われる谷沢のみじめな姿でした。アメリカの屈強なプレイヤーたちに囲まれ、基礎を軽視したまま独善的なプレイを繰り返すかつての逸材を見て、眼鏡を怪しく光らせた安西先生の口から静かに漏れた言葉が、「まるで成長していない………」でした。