サイレントマジョリティー(silent majority)は、直訳すると「物言わぬ多数派」「静かなる大衆」を意味します。積極的なデモや過激な発言行動を起こさないものの、社会や組織の中で数的な優位を占めている一般層を指す言葉です。
この概念が政治の表舞台で脚光を浴びた契機は、1969年11月3日に行われた米国のリチャード・ニクソン大統領による歴史的なテレビ演説でした。当時、米国ではベトナム戦争への介入に対する激しい反戦運動が巻き起こり、連日メディアは街頭で声を荒らげる若者や活動家たちの姿を報道していました。ニクソン大統領は世論が反戦一色に傾いているかのような報道に対し、次のように呼びかけたのです。
「今夜、私はこの国の偉大なる静かな多数派(great silent majority)の同胞たちに支持を求めたい」
連日のデモに参加せず、日々の労働と家庭生活を黙々と守っている中産階級の国民こそが多数派であり、政策への正当な支持基盤であると位置づけた瞬間でした。報道各社の記録や政治史の分析によれば、この演説によってニクソン政権は70%を超える支持率を獲得し、自らの政策を後押しする巨大な民意の可視化に成功しました。
政治において「発言力を持たない、あるいはあえて発言しない層」の存在を浮き彫りにしたこの言葉は、半世紀を経た現代でも、世論調査や選挙分析の基本ターミノロジーとして不可欠な位置を占めています。