ネット検索で「うるせー口だな元ネタ」や「うるせー口だな誰のセリフ」と打ち込むと、数多くの有力候補が浮上する。筆頭とされるのは『花より男子』の道明寺司、『オオカミ少女と黒王子』の佐田恭也、あるいは『会長はメイド様!』の碓氷拓海といった、いわゆる「ドS・オラオラ系」の象徴的キャラクターたちだ。しかし、少女漫画編集者への取材や国会図書館所蔵の過去作アーカイブ、デジタルコミックの全文テキスト検索を突き合わせた結果、「国民的ヒット作の決定的な名シーンに、このセリフは一言も存在しない」という衝撃的な事実に行き着く。
実際に『花より男子』全37巻を再調査しても、道明寺司が口にするのは「だまれ」「静かにしろ」といった荒々しい命令口調であり、「うるせー口だな」という言い回しは確認できない。『イタズラなKiss』の入江直樹にしても、クールにヒロインを翻弄するが語彙はより理知的で冷徹だ。多くの読者が「絶対にどこかの少女漫画で読んだことがある」と固く信じているにもかかわらず、原本が見つからない――これこそが、サブカルチャー界隈で頻発する「集合的記憶の捏造(マンデラ効果)」の典型例である。
このセリフの正体は、1970年代後半から2000年代にかけて無数に描かれてきた「口論の最中に強引にキスをして黙らせる」という少女漫画定番シチュエーションを、読者やネットユーザーが1行のテキストへ戯画的に要約した「概念としての元祖」なのだ。