ロキソニンが効かない事態に直面した際、多くの人が「薬の量が足りないのではないか」と誤認します。しかし、根本的な診断そのものが狂っている可能性を疑わなければなりません。その筆頭が親知らず周囲炎と抗生物質の不可分な関係です。
下顎の親知らず(智歯)が中途半端に生えている場合、歯と歯肉の間に深いポケットが形成され、嫌気性菌が爆発的に増殖します。この細菌感染によって歯肉弁が化膿する「智歯周囲炎」では、痛みの根本原因は「活動性の細菌感染」そのものです。消炎鎮痛剤は神経伝達を麻痺させようとするだけで、増殖し続ける細菌には何のダメージも与えられません。ここではペニシリン系やセフェム系といった適切な抗生物質の投与による抗菌治療と、局所の生理食塩水洗浄を行わない限り、痛みは決して沈静化しないのです。
さらに見過ごせないのが、歯そのものには一切の病変がないにもかかわらず歯が痛む非歯源性歯痛の最新診断情報です。日本口腔顔面痛学会の診療ガイドラインでも警鐘が鳴らされている通り、激痛の原因が以下のような他臓器・神経疾患であるケースが少なからず存在します。
- 三叉神経痛:顔面の感覚を司る三叉神経が血管に圧迫されて生じる。電撃が走るような数秒〜数十秒の激痛が歯に走り、ロキソニンは無効(抗てんかん薬カルバマゼピンが第一選択)。
- 筋・筋膜性歯痛:過度な食いしばりやストレスにより、咬筋や側頭筋に生じた「トリガーポイント」からの関連痛が奥歯の痛みとして脳に誤認される。
- 心原性歯痛(極めて危険):狭心症や心筋梗塞の前兆として、左下顎や左の奥歯に放散痛が現れる。労作時に歯が痛み、安静にすると治まる場合は循環器内科への緊急受診が必要。
- 群発頭痛・副鼻腔炎:目の奥や上顎洞(鼻の横の空洞)の炎症・血管拡張が、上顎の奥歯全体の激痛として知覚される。
ネット上にはびこる民間療法、例えば「痛む歯の穴に正露丸を詰める」「アルコール度の高い酒で口をゆすいで麻痺させる」「ロキソニンを一度に2錠飲む」といった行為は極めて危険です。正露丸を無理に押し込めば歯髄壊死を早め、アルコールは血行を促進して拍動痛を破滅的に悪化させます。誤った自己治療は症状を悪化させる以外の結果を生みません。