佐藤多佳子氏が紡ぐ文体は、陸上経験者への徹底的な取材に裏打ちされたリアリティと、思春期の剥き出しの感情を射抜く詩情を兼ね備えています。作中に散りばめられた言葉の数々は、多くの読者の座右の銘となってきました。
「お前がバトンを持ってこい。俺が絶対に前でゴールしてやる」――レース前の極限状態で交わされる新二と連の会話や、「走るって、すごくシンプルだ。自分の体一つで、ただ前へ進むだけだ」という新二のモノローグは、スポーツの本質を端的に表現しています。また、指導者である三輪先生が投げかける「才能とは、自分を信じて努力を続けられる力のことだ」という言葉は、競技の枠を超えて人生の指針となる重みを持っています。
本作が全国の中学・高校で読書感想文の題材として長年選ばれ続けている背景には、「挫折からの再起」「兄弟コンプレックスの克服」「集団における個人の役割」という普遍的な成長テーマが内包されている点にあります。単なる根性論ではなく、自己の弱さと論理的に向き合い、仲間とのコミュニケーションを通じて精神的自立を果たしていくプロセスは、思春期の読者が自己投影しやすい最高のテキストとなっています。