弟切草に付けられた花言葉の代表格は、「恨み」「秘密」「敵意」「迷信」「盲信」という、花への賛美とは程遠い言葉ばかりです。この不気味な意味の根源は、平安時代中期、花山天皇の治世(980年代半ば)に実在したと伝わる鷹匠(たかじょう)の兄弟を巡る凄惨な事件に端を発します。
当時、兄の晴頼(はるより)は、鷹が狩りで負った傷を瞬時に治す門外不出の秘薬を用いて、名うての鷹匠として名を馳せていました。その薬草の正体は一族秘伝とされ、晴頼は決して他人に明かそうとはしませんでした。ところが、弟はその薬草が野に自生する草であることを親しい恋人(あるいは友人の鷹匠)に漏らしてしまいます。
秘密を漏洩されたことを知った兄は激怒し、刀を抜いて実の弟を一刀両断にして斬り殺しました。この「兄が弟を切り殺した草」という凄惨な悲劇から、そのまま「弟切草(オトギリソウ)」という名が定着したと古典植物誌や各地の民話に記録されています。弟が抱いた無念と裏切られた兄の怒りが、現代に伝わる「恨み」「秘密」という花言葉の由来となったのです。