結論から述べると、ドラマ『僕のいた時間』に特定の原作小説や漫画、あるいは単一のモデルとなった実在人物の手記などは存在しません。『僕の生きる道』『フリーター、家を買う。』など、人間の尊厳や家族の絆を丁寧に紡ぎ出すことで定評のある脚本家・橋部敦子氏が手掛けた完全オリジナルストーリーです。
それにもかかわらず、なぜ「実話ではないか」「澤田拓人にモデルがいるのでは」という噂が絶えないのでしょうか。その背景には、医療関係者や難病当事者も唸らせた徹底的なリアリティの追求があります。
制作陣は執筆にあたり、一般社団法人日本ALS協会をはじめ、神経内科の専門医、理学療法士、作業療法士、そして実際にALSと闘う患者とその家族への綿密な聞き取り取材を重ねました。病気の初期症状である「ペットボトルのキャップが開けにくい」「足がもつれて転倒する」「左手の指先が動かない」といった日常の微細な違和感から、人工呼吸器の装着をめぐる葛藤、コミュニケーション支援機器の操作に至るまで、多くの患者の手記や現場の声が緻密に再構成されているのです。
つまり、特定の1人を描いた実話ではないものの、「無数のALS当事者が経験した真実の集積」が澤田拓人というキャラクターに昇華されています。