世田谷一家殺人事件が特異とされる最大の理由は、犯人が意図的か過失か現場に自らの身元につながる決定的な私物を大量に脱ぎ捨てて逃走した点にあります。世田谷一家殺人事件の遺留品一覧を精査すると、犯人の生活圏や経済状況、嗜好が克明に浮き彫りになります。
犯人が現場に残した代表的な物品として、「スラッシャー(THRASHER)のロゴ入りニット帽」、「エールフランスのロゴ入り香水(ドラッカーノワール)」、そして「緑色のヒップバッグ」が挙げられます。このヒップバッグの内側やポケットからは、微量のチタン酸バリウム(蛍光染料などに使われる物質)や、東京都三鷹市・武蔵野市周辺の公園に自生する樹木の種子、さらにはアメリカ西海岸の砂などが検出されました。また、現場に残された凶器は福良有限会社製の「関の孫六」銀寿柳刃包丁であり、犯行前日に武蔵野市内のディスカウントショップで購入された同型包丁であることが確認されています。
さらに捜査本部が最重要視してきたのが、犯人の足跡とテニスシューズです。現場の床や庭に残された足跡(タイヤパターン状の靴底)から、英国ブランド「スラセンジャー(Slazenger)」のテニスシューズであることが特定されました。サイズは27.5cm〜28cm(韓国表記で280)。当時、この靴底パターンのモデルは日本国内での正規販売ルートがなく、韓国国内で大量流通していた事実が判明しており、犯人が直接または第三者を介して韓国で購入した可能性が極めて高いと結論づけられました。
現場に残された世田谷一家殺人事件の指紋データは極めて鮮明でした。右手親指をはじめとする十数個の指紋が採取され、警視庁の「自動指紋識別システム(AFIS)」により照合が行われましたが、当時の犯罪前歴者データベースには一致する人物が存在しませんでした。この事実は、犯人が過去に日本国内で指紋を採取されるような重大犯罪で逮捕された経験がなかったことを決定づけています。