セシウム原子時計によって完璧を手に入れたかに見えた時間の定義ですが、2026年現在、科学界は再び大きな転換点を迎えています。なぜ今、1秒の再定義が必要とされているのでしょうか。
その理由は極めて明確です。「人類の測定技術が進化しすぎた結果、現行のセシウム時計の精度そのものが科学の進歩のボトルネックになってしまった」からです。
この限界を突破したのが、東京大学大学院工学系研究科の香取秀俊教授が2001年に提唱し、世界に先駆けて開発した「光格子時計(Optical Lattice Clock)」です。
従来のセシウム原子時計は、原子を観測する際に周波数がギガヘルツ(GHz、10の9乗)帯のマイクロ波を使用していました。これに対し、光格子時計が使用するのはレーザー光、すなわちテラヘルツからペタヘルツ(10の15乗)帯の「光」です。振り子の揺れる回数が1秒間に91億回から、なんと「数百兆回」へと跳ね上がります。定規に例えるなら、ミリ単位の目盛りしかなかった世界に、いきなりナノメートル単位の超微細な目盛りが刻まれたようなものです。
香取教授のブレークスルーは、レーザー光の干渉によって空間内に卵パックのような光の檻(光格子)を作り出し、そこに数十万個のストロンチウム原子などを1個ずつ閉じ込めて静止させた点にあります。これによって原子同士の衝突やドップラー効果による測定ブレを完全に封じ込めることに成功しました。その精度は実に「数百億年に1秒のズレ」。宇宙が誕生してから現在までの約138億年間にわたって動かし続けても、1秒すら狂わない計算になります。
2026年最新の国際動向として、国際度量衡委員会(CIPM)の時間周波数諮問委員会(CCTF)は、2030年の国際度量衡総会(CGPM)における1秒の再定義を正式ターゲットに設定しています。現在、日本のNICTや産業技術総合研究所(AIST)、ドイツのPTB、米国のNISTなどが光格子時計の国際比較実験を精力的に重ねており、再定義に必要な複数の厳格なクライテリア(基準)を次々とクリアしています。