五右衛門風呂の温まり方が一般的なガス風呂やユニットバスと決定的に異なる理由は、浴槽の素材である鋳鉄(ちゅうてつ)の物理的特性と、直火加熱による熱伝導の仕組みにあります。
一般的な家庭用風呂は、給湯器で温めた湯を循環パイプから注ぎ込むため、湯船の中に対流が生じにくく、表面だけが熱く底がぬるい「温度ムラ」が発生しやすい傾向があります。これに対し五右衛門風呂は、燃焼室(かまど)の炎が鋳鉄釜の底部を直に熱します。熱せられた湯は比重が軽くなって下から上へと勢いよく立ち上り、浴槽内で激しい自然対流を起こします。
さらに重要なのが、分厚い鋳鉄から放射される豊富な遠赤外線です。金属の中でも鋳鉄は蓄熱容量が極めて大きく、一度温まると熱を内部に蓄え、穏やかに放射し続けます。これにより、皮膚の表面だけでなく皮下組織まで均一に温められ、「湯冷めしにくく、骨の髄まで温まる」と評される独特の浴感が生まれるのです。
野外アクティビティでよく目にする「ドラム缶風呂」と混同されがちですが、両者の体験価値には明確な隔たりがあります。ドラム缶風呂は鋼板が薄いため、焚き火の火力を止めると急速に湯が冷めるうえ、側面に体が触れただけで火傷する危険性が常に伴います。一方、伝統的な五右衛門風呂はかまど(耐火煉瓦)で釜の周囲が覆われており、蓄熱された鋳鉄の重厚な熱波に包まれるため、入浴体験の質そのものが全く異なります。