長年、中世ヨーロッパの暗黒を物語る決定的な証拠とされてきた道具がある。しかし、ドイツのローテンブルク中世犯罪博物館をはじめとする世界的な歴史機関が近年進めているX線分析や金属年代測定の最新データは、予想外の真実を突きつけている。現存する「梨」の多くは、実は中世ではなく、19世紀のヴィクトリア朝時代に観光見世物用として作られた偽造品か、あるいは全く別の用途を持つ医療器具や金庫の鍵だった可能性が極めて高いのだ。
博物館の秘蔵資料や未公開の保管記録を精査すると、当時の異端審問記録や裁判記録には、この器具の使用を示す明確な一次資料がほとんど存在しない。19世紀のコレクターたちが刺激的な怪説を求めて「拷問器具」というストーリーを後付けした結果、虚構が事実へとすり替わっていった。もちろん、器物を用いた非人道的な処罰が皆無だったわけではない。しかし、私たちがイメージする「万能の凄惨な拷問道具」としての苦悩の梨は、後世の猟奇的趣味が創り出した幻想の側面が大きい。