力士の大銀杏は、日本相撲協会に所属する専属の職人「床山(とこやま)」の卓越した技法によって結い上げられます。相撲界において力士の髪を触ることを許されているのは床山だけであり、彼ら自身も力士と同様に「見習い」から「特等床山」までの厳しい階級制度の中で生きています。
大銀杏を結う工程には、熟練の職人技が凝縮されています。
- 梳き(すき)と油つけ:まず目の細かい櫛で力士の髪を丁寧に梳き、固めの「すき油(びん付け油)」を手のひら全体に馴染ませて髪全体に塗り込みます。この油の粘度と独特の芳香が、激しい頭のぶつかり合いでも髷が崩れない強固な土台を作ります。
- 元結(もとゆい)の締め上げ:「元結」と呼ばれる強靭な和紙の紐を使い、頭頂部の束ね目を一気に締め上げます。緩みがあれば取組中に髷が解けてしまうため、床山は歯や全身の力を使い、極限のテンションで縛り上げます。
- 髷棒(へら)による扇形成形:束ねた毛先を前方に折り返した後、髷棒(へら)と呼ばれる専用の木製道具を用い、毛先をミリ単位で均等に広げていきます。これがまさに「銀杏の葉」を形作る最も高度な工程です。
大銀杏は単なる装飾ではなく、土俵で頭から落ちた際や土俵下に転落した際に頭部への衝撃を和らげる「天然のヘルメット」としての機能美も併せ持っています。力士と床山は二人三脚で土俵の安全と様式美を守り続けているのです。